近年、データ分析、人工知能(AI)、機械学習が主流になりつつある中で、ビッグデータは様々なビジネス領域で利用・応用されています。
ビッグデータとは、膨大で多様なデータの集合体であり、構造化データ、非構造化データ、半構造化データなど様々な形式が存在します。
ソーシャルメディアの出現により、顧客行動に関するデータ収集の新たな機会が生まれました。
代表的な例は、以下のとおりです。
- クリックストリームデータ:ウェブサイト上でのクリックやスクロールなどの行動データ
- ソーシャルビジネスサイト:顧客が購買行動に関する情報を共有するオンラインコミュニティ
- センサーデータ:温度、湿度、交通パターンなど、顧客の物理的環境に関するデータ
データ分析から得られる洞察は組織の意思決定に役立ちますが、ビッグデータの真価を発揮するには、適切な管理が不可欠です。組織はシンプルなユースケースから始め、迅速にアウトプットを確認することで、ビッグデータ領域で効果的に活用できます。
ビッグデータ・イニシアチブを成功させるためには、事前に適切な計画を立てることが重要です。
- プロジェクトの目的を明確にする:何のためにビッグデータを活用するのか、具体的な目標を設定する
- 期待される価値を明確にする:ビッグデータ分析によってどのような成果を期待するのか
- ビジネス意思決定への影響:分析結果をどのように意思決定に活かすのか
- 最も有望な分野から始める:最初から大規模な取り組みではなく、成功しやすい分野から着手する
本記事では、ビッグデータ・イニシアチブにおいて「やるべきこと」と「やってはいけないこと」を探っていきます。
1. 目的と出発点を理解する
ビッグデータプロジェクトを成功させるためには、まず何のためにデータを収集するのか、そしてどこから始めれば良いのかを明確にすることが重要です。
最初のステップは、ビジネスにとって最も有望なユースケースを特定することです。具体的なユースケースを明確にすることで、必要なコンポーネントを特定しやすくなります。
次に、れらのユースケースにビッグデータ技術をどう適用し、ビジネス成長のための貴重な洞察を引き出すのか、詳細な計画を立てます。
実行の優先順位は、以下の要素に基づいて決定されます。
- 導入コスト
- 予想されるビジネスへの影響
- 立ち上げに要する期間
- 実装のスピード
組織は常に、パイロットプロジェクトとして、シンプルで実装が簡単なアプリケーションから始めるべきです。
2. データライセンスを適切に設定する
データは、あらゆるビッグデータ分析プロジェクトの基盤であり、非常に重要な存在です。データを悪用から守るためにも、適切なデータライセンスを設定することが不可欠です。
ベンダーやサードパーティのユーザーにデータへのアクセスを許可する前に、以下の点について明確に定義する必要があります。
- 誰がデータを使用するのか?
- どのようなデータにアクセスするのか?
- データはどのように使用されるのか?
上記の項目を明確にすることで、データの不正使用を防ぎ、企業に悪影響を与えるリスクを軽減できます。
データライセンスには、上記以外にも考慮すべき重要なパラメータが多数存在します。ライセンス契約を締結する前に、各パラメータについて十分に理解し、適切な条件を設定することが重要です。
ライセンシングに不備があると、データの損失や不正使用につながり、企業に大きな損害を与える可能性があります。
3. データの民主化を可能にする
データの民主化とは、組織内の誰もがデータにアクセスし、活用できる環境を構築するプロセスです。組織の意思決定の迅速化とデータに基づいた判断の促進に役立ちます。
データの民主化を実現するには、以下の4つのポイントを押さえることが重要です。
- 全階層からのデータアクセス:組織構造に関係なく、すべての従業員が必要なデータにアクセスできるようにする必要があります。
- 信頼性のある情報源:データを検証し、信頼できる情報源を確立することで、データの信頼性を高めます。
- 意見交換の促進:誰もがデータに基づいて意見を述べられる環境を作ることで、多様な視点を取り入れ、より良い意思決定を促進します。
- 新しいアイデアの試行:計算されたリスクを伴いながら新しいアイデアを試すことで、組織全体の学習と成長を促進します。
4. 協力的な文化を築く
ビッグデータの活用において、組織内の異なる部門やグループ間の相互協力は不可欠です。役割や責任を超えた協力体制、適切な組織文化こそが、ビッグデータへの取り組みを成功に導きます。
組織の経営陣は、将来に対する明確なビジョンを持ち、新しいアイデアを積極的に奨励する必要があります。すべての従業員と部署が、新たなチャンスを見つけ、検証する環境が必要です。
批判や責任の押し付け合いではなく、成功と失敗を平等に受け入れる文化を醸成することが重要です。失敗を恐れずに挑戦できる環境こそが、イノベーションを生み出す源泉となります。
5. ビッグデータ・インフラを評価する
ビッグデータ・プロジェクトにおいて、インフラは重要な役割を担います。ペタバイト規模のデータを処理し、洞察を得るためには、ストレージと処理インフラの両方を適切に評価する必要があります。
ストレージ
データセンターは、ビッグデータのストレージとして一般的に使用されます。評価項目は以下のとおりです。
- コスト
- 管理
- バックアップ
- 信頼性
- セキュリティ
- スケーラビリティ
パブリッククラウドの利用も検討できますが、6つのリスクを理解した上で導入する必要があります。
処理
ビッグデータの処理には、適切な技術インフラが必要です。契約前に以下の項目をチェックしましょう。
- 処理速度
- スケーラビリティ
- 信頼性
- セキュリティ
- コスト
クラウドサービスは、利用方法とコストの面で柔軟性があり、多くの企業で採用されています。主要なクラウドベンダーは、AWS、Azure、GCPなどです。
6. データの海に迷い込まない
ビッグデータプロジェクトを成功させるためには、優れたデータガバナンスと適切なデータ収集戦略が不可欠です。
多くの場合、企業は過去のあらゆるデータを収集しようとします。しかし、全てのデータが現在のビジネスシナリオに役立つとは限りません。まず、ビジネスのユースケースを特定し、必要となるデータを明確にすることが重要です。
ターゲットとなるビジネスアプリケーションに直結したデータ戦略を策定しましょう。データの収集方法、管理方法、分析方法などを明確に定義することが重要です。
データ戦略が定まったら、段階的に実装を進めましょう。まずは必要なデータを収集し、モデルを構築します。その後、新しいデータを追加し、モデルの精度と効率を向上させていきます。
7. オープンソースを活用する
ビッグデータプロジェクトを検討する際、技術の有用性はプロジェクト規模と組織の予算に基づいて評価する必要があります。多くのオープンソースプラットフォームは、パイロットプロジェクトに無料で利用できます。
中小規模の組織は、オープンソースソリューションを活用することで、ビッグデータへの取り組みを始めることができます。重要なのは、成果と投資収益率(ROI)に焦点を当てることです。
Hadoopは、ビッグデータ分析に広く利用されているオープンソースのソフトウェアフレームワークです。HDFS(Hadoop Distributed File System)とMapReduceを使用して、コモディティハードウェアのクラスタでビッグデータを処理します。Hadoopは、ビッグデータ処理のデファクトスタンダードとなり、ビッグデータムーブメントの発展に貢献しました。
MapReduceは、Googleによって開発されたプログラミングモデルです。シンプルなプログラミングを使ってデータを分散し、コンピュータのクラスタ間で並列処理できます。大規模なクラスターで大量のデータを効率的に処理できるのです。
8. 計画なしに飛び込むのは危険
多くの企業はビッグデータの導入を急ぎすぎて、失敗してしまいます。しかし、すべてのプロジェクトを一度に始めるのは非常に危険です。部分的な失敗にとどまればまだ良いですが、多くの場合、完全な失敗に終わってしまう可能性が高いでしょう。
ビッグデータプロジェクトを成功させるためには、まず計画を立てることが重要です。いきなり大規模なプロジェクトに取り組むのではなく、シンプルで小さく、測定可能なアプリケーションから始めることを推奨します。
パイロットプロジェクトが成功すれば、それを大規模なアプリケーションに展開できます。時間をかけて計画を立て、慎重にパイロットプロジェクトを選択することが、成功への鍵です。
9. セキュリティを軽視しない
ビッグデータプロジェクトにおいて、データセキュリティは重要な側面の1つです。
ペタバイト級のデータが様々なソースシステムから収集・処理され、分析モデルの入力となり、ビジネス価値のある洞察を生み出すビッグデータシナリオにおいて、生データの加工と分析結果の機密性、完全性、可用性(CIA)を確保することは不可欠です。
重要なビジネス情報を含むデータは、組織にとって貴重な資産です。そのため、サイバー攻撃などの脅威から保護する必要があります。
データセキュリティは、ビッグデータ導入のライフサイクル全体を通して計画・実行する必要があります。
10. 孤立した事業部門に囚われない
現代の複雑なビジネス環境において、単一の事業部門に焦点を当てるだけでは、成果を上げることが難しくなっています。組織全体を俯瞰し、グローバルな視点で考えることが重要です。
最善のアプローチは、小さなステップを積み重ねながら、常に全体像を見失わないことです。各事業部門も、組織全体の視点に立って行動する必要があります。
上記のようなプロセスを踏むことで、相乗効果が生まれ、投資収益率(ROI)の向上にもつながります。
まとめ
ビッグデータ導入には、決まった成功パターンはありません。しかし、計画、戦略、アプローチなどを適切に組み合わせることで、成功に近づくことができます。
各組織は、それぞれ独自の目標を持っているため、各目標に応じて戦略を計画する必要があります。また、パイロットプロジェクトを慎重に選択し、得られた情報を適切に保護・活用することも重要です。